2013年9月29日日曜日

現在公開可能な情報 アニメ25話の超長いアイキャッチ

現在公開可能な情報

壁①

 784年。うだるように暑い夏の日の夜、一人の坑夫が地下から壁を越え、ウォール・シーナに入ろうと試みた。
 ウォール・シーナに行けばいい暮らしができるかもしれない――数日前、炭坑に入って円匙を振るっているときに突然そんな考えが坑夫の頭に浮かんだ。それはある意味に置いて啓示と言ってもよかった。
 それから坑夫は何日かかけて歩き回り、壁沿いに密生する森の中に掘削地点を定めた。そこならまず誰も来ないし、頭上を覆う葉っぱが壁上で監視に立つ兵士から穴を掘る自分の姿を隠してくれるはずだ。彼はそう考え、翌日の夜を決行日とした。坑夫は使い慣れた大きな幅広の円匙で地面を掘った。作業は順調に進んだ。穴の深さはすぐに自分の背丈を超えた。すくい上げた土を外に放り出せなくなると、土を布の袋に詰め、梯子を登って外に捨てた。時折水を飲み、凝り固まった筋肉をほぐすとき以外は掘ることに没入した。
 穴を掘るという行為に対して、坑夫は絶対的な自信を持っていた。彼は二十年間休むことなく穴を掘り続けてきたのだ。そしてその間に彼は誰よりも深く早く、効率的に穴を掘る技術を身につけた。誰もが手を焼くひどくやっかいな坑道でも、坑夫にかかればあっという間に道が開けた。
 しかしその日は少し様子が違った。何時間掘り続けてもまるで先が見えてこないのだ。途中で何度か横に円匙を入れてみたが、無駄だった。壁の基礎はどこまでも深く地中に根を下ろしており、坑夫の行く手を阻んだ。
 それでも坑夫は決して諦めることはなかった。何がなんでもウォール・シーナに行きたかったからではない。そのときはもうウォール・シーナでの暮らしなんてどうでもよくなっていた。坑夫はただ壁を征服してやりたいと思っていただけだ。穴を掘り続けた俺の二十年をかけて、絶対にこの壁を越えてやる。ひっきりなしに流れる汗を拭いながら、坑夫はそう心を決めた。
 円匙の先が固い岩盤に当たったのは坑夫が自分の背丈の四倍か五倍以上は堀った後のことだった。
 岩盤? と坑夫は思った。それは地中に根をおろした壁の基礎と同じ材質で出来ているようだった。坑夫は岩盤に力いっぱい円匙を振り下ろした。岩盤には傷ひとつつかず、円匙の方が壊れてしまった。坑夫はこれまで二十年かけて掘ってきたどの穴よりも深く大きな溜め息をついた。


壁②

「壁?」 坑夫の友人はいくらか怪訝な顔でそう訊いた。
「変な話だろう」と坑夫は言った。そして一口酒を飲んだ。
「地面の中にまで壁があるなんてな」
 二人は場末の酒場の奥まった場所にあるテーブルに向かい合って座っていた。坑夫はたいてい仕事の後で唯一の友人である彼とそこで酒を飲んだ。その日(というのは、坑夫が壁を抜けようとした翌日のことだが)も坑夫は仕事が終わるとどちらから誘うというわけでもなく彼と酒場に入り、そこで昨夜の出来事を打ち明けた。この友人なら誰かに漏らすこともあるまいと思ったのだ。
「俺たちはもしかしたら地上だけじゃなくて、地下までも壁に囲まれているのかもしれないな」と坑夫は言った。

「なあ、そもそも壁ってのはいったい――」

 友人は咳払いをして坑夫の言葉を遮り、そして酒場の中を見回した。酒場にいる客たちは酒を飲んだり、看板娘を口説いたり、大声で喋ることに忙しいらしく、こちらを見ている物は誰もいなかった。それでも坑夫はそれ以上壁について話すことをやめた。もし誰かに聞かれでもしたら、あっという間に憲兵が来ることになる。
「まぁいいじゃないか」と友人は気を取り直して言った。
「その通りだ。また地道に穴を掘るよ。結局のところ、俺にはそれが似合っているんだろう」
 しかし翌日、坑夫は仕事場に姿を現さなかった。次の日も、また次の日も坑夫は仕事に来なかった。坑夫の友人は何度か家を訪ねてみたが、いつ行っても坑夫はいなかった。また坑夫には親兄弟も連れ合いも親しく付き合っている人間もいなかったから、彼の行方に心当たりのある人間はひとりも見つからなかった。
 坑夫の友人はどうしようか迷ったが、やはり坑夫の試みも含めたすべての出来事を駐屯兵団に話した。そうして翌日から駐屯兵団と憲兵団による大々的な合同捜索がはじまった。それは一人の貧乏な坑夫――地面を掘って壁を抜けようと試みた犯罪者ではあるが――の行方を捜すというにはいささか大仰にすぎるものだった。
 なぜ彼らがそこまでやっきになるのか坑夫の友人には理解できなかった。
 しかし坑夫はとうとう見つからず、彼が掘ったという穴もついに発見されることはなかった。
 そしてまた坑夫の友人もある日忽然と姿を消し、その行方は現在も不明のままである。

文字数にして、なんと1890文字! アニメ史に残るアイキャッチとなりました。
アニメ最終話放送後に流れた「オレ達の戦いはこれからだ!」